最近はコロナ禍だったからでしょうか。
それともドラマの影響でしょうか。
薬剤師の存在が世間にも知られてきましたね。
「薬剤師は楽な仕事。給料も安定してるから将来は安泰だ!」
「薬を袋に詰めているだけでお金がもらえるなんて羨ましい!」
「アンサング・シンデレラ見てました!薬剤師ってこんなことしていたの?」
なんてセリフをよく耳にします。
なかには心無いアンチコメントがたくさんありますが、
実際のところ薬剤師は何をしているのでしょうか?
病院と薬局の勤務経験のあるシロウマが、本当のところをお教えいたします。
子どもが薬剤師を目指している人、またはご自身が薬剤師を目指したい人は必見です。
まずはこちらを見てください
薬局を利用したことのある人ならわかりますね。
これはある患者さんのお薬手帳の内容です。
Aさんのお薬手帳
Bさんのお薬手帳
ごく普通の内容に見えます。
若い方は身近に感じないと思いますが、
皆さんの家族にも、このように数種類の薬を飲んでいる人は多いでしょう。
じつはこれ、
薬が原因で起こってしまった死亡事故の例です。
私はこんなに飲んだことないから大丈夫だ~
と思っている人は注意です。
この処方内容は私がいろいろと着色しましたが、
これらの薬の、たった2剤の飲み合わせあるいは適さない薬が1剤で死亡事故が起こりました。
この他にも、点滴注射の”とある抗生剤“と”カルシウム含有製剤“を同時投与してしまい、薬の結晶化が原因で命を落とした事例や、投与速度が原因で死に至った事例もあります。
そして、死亡に至っていないだけで、薬の不適切な使用が原因で、臓器障害などの有害事象を引き起こすケースが多々あります。
患者本人が気づかないケースもあるので、たちが悪いですね。
おいおい、世の中の薬剤師は何をしとるんじゃ!
と思う方もいらっしゃるはずです。
ですが心当たりのある方は多いのではないでしょうか。
「お薬手帳忘れました」
「先ほど医者に同じようなこと話したので結構です」
このような患者さんが1日に数人来局されますが、こうなってしまうとすべてを防ぐことは難しいのです。
もっと言ってしまえば、入院患者の急変時などは薬剤師がほとんど関与できていないのが現状ですので、今後の薬剤師の在り方を変えていかなければなりません。
ちなみに薬剤師による処方の変更は、日本では1日5~6万件であると推定されています。
こうして改めて考えてみると、薬って怖いですよね。
薬の飲み合わせや、その時の状況によって有害事象を引き起こします。
薬剤師という仕事は、命を直接救うことができないため、認知されることや感謝されることは数少ないですが、ミスがひとつ起こってしまうと患者に被害が及びます。
薬が患者さんの手に渡る前の最後に確認する仕事ですので、医療の間違いを正さなければなりません。
このように『最後の砦』に位置する、ひとつのミスが死に直結してしまう可能性のある仕事です。
ですから、
「病院でお薬手帳を出したのに、なんで薬局でも出さないとダメなの?」
「さっさと袋に詰めて渡してください」
と言われても、どうしても確認しなければいけないのです。
このようにおっしゃる患者さんは、
「お薬手帳は忘れましたが、私は他のクスリを飲んでいませんし、特に持病もありません。」
と嘘でも言っていただければ、
患者さんは長い話を聞くことがなく
薬剤師側も労力を消費しなくて済むのですが。
(ただし自己責任でお願いしますね^^)
「薬剤師はいらない」とおっしゃる方々はきっと、今まで平和に過ごしてきたのでしょう。
平和って、いいことなんですけどね。
医師には処方権、薬剤師には調剤権
『医師には”処方権“がある』なんて言葉はよく聞きますよね。糖尿病薬などの処方箋医薬品の場合は、医師が処方箋を発行しなければ患者さんは薬をもらうことができません。
しかし薬剤師にも、それと同じ権利を有しています。これを”調剤権“といいます。
“調剤権“は「薬剤師でなければ処方箋をもとに医薬品の調剤をすることはできない」という権利で、基本的に医師や看護師が処方箋医薬品を調剤することはできません。
さらに言えば、医師の処方箋に疑問に思う点があれば、その処方に疑義を唱えたり、拒否する権利(義務)があるのです。
「医師は医学的に妥当な処方を行い、薬剤師は薬学的に妥当な処方を調剤する」
こうして医と薬を分業することで、患者さんが安心安全に治療を行えるような仕組みになっています。
まあ、どちらの権利にも例外はありますが。
なので、患者さんの治療がうまくいかず、死亡事故などがあると訴えられることがあります。
これは、処方した医師だけではなく、調剤権を持つ薬剤師にも関係してきます。
どんな勉強をするの?
薬剤師という職種は、どちらかというと科学者寄りの医療者です。
医学部や看護学部は『人』を対象とした学問が中心となりますが、薬学部は『化学物質』を中心に学んでいきます。
大学6年間で、
数千種類以上もある医薬品の作用機序や、薬を理解するための物理・化学・生物の勉強を始め、薬物動態・相互作用・製剤性などの薬学、解剖学や病態学などの医学、さらには食品添加物や毒物などの栄養学をひたすら勉強します。
これ以外にもまだまだ多くの分野があるので、
6年間の勉強期間は、はっきりいって密度が濃く、暗記と理解に追われる日々になります。
たとえば薬物動態学というのは、
「薬を投与した後、その薬が体内でどのような法則で吸収されて消失していくのか」
を解析する分野です。
これが非常に難しく、薬剤師が薬の専門家と呼ばれる所以になります。
投与された薬の数パーセントが小腸で吸収され、血液中や脂肪、筋肉などに分布され、その後に代謝・排泄されます。
その薬の酸性度や構造式、臓器や細胞の特徴、製剤性、個人の検査データによってそれぞれ違ってくるのです。
ちなみに構造式というのはこのようなものです。
物理や化学を深く勉強すると、この物質が水に溶けやすいかどうか、吸収されやすいかどうか、相互作用や副作用が起きやすいかどうかを考えることができます。
具体的な例を一つ挙げますと、
ムコダイン(カルボシステイン)によるアレルギー症状があります。
ムコダイン(カルボシステイン)は風邪薬として有名な薬ですね。いつもお世話になってます。
ムコダイン(カルボシステイン)を夜遅くに服用してしまうと、薬疹が起こる確率がかなり上がります。
これは、ムコダイン(カルボシステイン)が深夜に代謝されると、2,2′-チオジグリコール酸(TDGA)と呼ばれる薬疹を引き起こす代謝物として生成されてしまうことが原因です。
薬物動態学を学ぶことで、薬が体内から消失する時間を計算することができます。
そうすると、深夜の代謝を避けることができ、TDGAによるアレルギー反応を未然に防ぐことが可能となるわけです。
さらに細胞表面には、薬物を出し入れする”輸送システム”があり、ここで薬物を出し入れすることで体内の薬の濃度が保たれます。
この”輸送システム”を利用できる薬剤は非常に細かく決められており、例えば同じ”輸送システム”を利用する薬剤同士は競合してしまい、相互作用が起こったりします。
ちなみに薬物動態学・相互作用・製剤性などは医学部では勉強しませんので、皆さんが思っているほど、医師は薬を知りません。
薬学的観点から見た医療って重要ですね。
もちろん他国語の勉強も必要です!がんばってください!
ここだけの話ですが、卒業後も勉強する毎日が続きます。
資格さえ取ってしまえばどうにでも生活はしていけますが、人の命に関わる職業であるため、やはり勉強は必要となります。
このようなわかりやすい参考書もたくさんあるので、勉強を続けるのはそこまで苦にならないはずです。
こちらの参考書は、楽しく学べたので、個人的にオススメしています。
薬剤師の就職先は?
薬剤師の就職先をざっとご紹介します。
- 調剤薬局
- 病院
- ドラッグストア
- 製薬会社
- 教授、研究職
- 麻薬取締官
- 食品衛生管理者など
おおまかにまとめるとこんな感じです。
薬剤師免許を持っていれば犯罪の取り締まりにも関与するんですね。
さらに、
児童への薬物乱用講座を始め、学校の照度・水質・換気状況を検査する『学校薬剤師』という仕事もありますが、本業ではなく副業としてこなしている人が多いです。
ちなみに、風邪を引いた児童に誤った薬を服用させ死亡させた事件を契機に、大学以外の学校には『学校薬剤師』が設置されることになっているので、実は皆さんどこかでお会いしているはずです。
調剤薬局は主に
処方箋に基づいた調剤業務を行います。さらには、患者在宅へ訪問し、薬の管理が難しい高齢者などを対象とした在宅医療へ介入することがあります。また、市販薬を取り扱っている薬局では、患者の健康相談を聞き、処方箋なしで薬を販売する業務もあります。
病院薬剤師は主に
処方箋に基づいた調剤業務のほかに、注射剤(抗がん剤や高カロリー輸液)の調整や、入院患者に対する病棟業務があります。病院での業務は、検査データを容易に参照することができるため、薬物治療の効果や副作用の判定をしやすく、処方提案がしやすいことが特徴です。
ドラッグストアは主に
患者の健康相談を聞き、市販薬を販売します。さらに、化粧品やオムツなどの日用家庭用品を取り扱うため、医薬品以外の幅広い知識を必要とします。調剤薬局を併設しているドラッグストアもあり、調剤業務も行うことがあります。
製薬会社は主に
医薬品を作るために研究をしたり、研究をもとに医薬品を開発したりします。さらには自社医薬品の管理、医療機関への情報提供、情報収集などがあります。薬剤師資格がなくても行える業務もありますが、薬剤師資格が優位に働くことが多いようです。
調剤薬局やドラッグストアはどこの地域にも多く存在するので、好きな地域で働けて、なおかつ転職しやすいのは医療者の中で薬剤師だけです。
人工知能(AI)に乗っ取られる?
人工知能(AI)が発展すれば薬剤師は不要になると言われています。
論文検索や統計データをもとにした単純な薬物相互作用を確認する仕事はAIに置き換えられる可能性があります。
しかし、患者さんとのコミュニケーションや、その中からわかる禁忌薬剤などもありますので、完全に置き換えられることはないでしょう。
まあ、そんなことを言ってしまえば、内科医や外科医なども置き換えられてしまいます。
画像検査や検査データをもとにした診療はAIができますし、手を使った処置は看護師が行えば良いわけですし。ロボット手術なんかも導入され始めていますからね。
薬剤師の働き方は、昔と比べて大幅に変わってきています。
AI技術が発展することで、薬剤師の働き方がさらに変わってくると思います。
私個人としては、とても楽しみです。
気になる年収は?
お金の話、気になりますよね。
ネットで検索してみれば出てくると思いますが、実はピンキリなんです。
年収1000万超える人もいれば、薄給の人もいます。
ちなみに病院薬剤師は、ほかの就職先に比べてかなり薄給です。(お金に代えがたい価値がありますが)
病院にもよりますが、看護師さんに少し毛が生えた程度ではないでしょうか。
6年間勉強したのにその程度です。
当直や休日出勤があれば別ですが、夜勤や休日出勤は医師や看護師に比べて少ないですからね。
時給で言えば高いですが、労働時間は少ないと思います。
ダブルワークで夜間の薬剤師アルバイトなんかを掛け持ちしてしまえば、年収1000万は超えるでしょうが、利点である労働時間の少なさはなくなってしまいますね。
私は奥さんが看護師でしたが、奥さんに比べても休める時間はかなり多かったです。
もともと給料自体は高く安定しているので、安定した所帯を持ちたい人にはかなりオススメの職業だと思います。
まとめ
薬剤師になるメリットは、自分の頑張り次第で、救える命や、救える人生があり、その人生に長くかかわれることです。そのうえで安定した給料や休日がもらえるのでいいですね。
ただし、その頑張りのほとんどは、日の目を浴びることはありません。
感謝されるほとんどは、医師・看護師へ向けられます。
そして、そんな医療職の中にも、いまだに薬剤師を見下ような態度をとる人がいます。(働く環境にもよりますが)
それでも薬剤師を目指したい人のであれば、人の命を扱う覚悟をもって目指してください。
病気を治すのは、医師でも薬剤師でもなく、薬です。
だからこそ、薬は正しく使わなければなりません。
我々薬剤師は、その薬と向き合い、患者さんが正しく服用できるようわかりやすく説明をすることで、皆さんの日常を守っていきます。
とても責任感のあるお仕事です。
私は、薬剤師になって良かったと思っています。
ぜひ参考にしてください。
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